Wired + Beat Records presents The Art of Listening Vol.1

Liner Notes

「響き」の面白さがただただ押し寄せてくる

TEXT BY MITSUTAKA NAGIRA

少し前にたまたま友人と「ここ最近はレーベルのサンプラーとか、発掘音源集みたいなものを除いて、目立ったコンピレーションがないね」なんて話をしていた。そういえば既存の音源から独自の切り口で選曲することで、そのアーティストの新たな魅力を炙り出して、僕らを(頷かせたり、納得させるのではなく)ハッとさせてくれるようなコンピレーションに刺激を受けた記憶がしばらくないなとその時に思ったものだった。僕はおそらくコンピレーションに飢えていたんだろう。そういう意味では、BEAT RECORDSとのコラボにより『WIRED』が仕掛けた“The Art of Listening Vol.1”という名のコンピレーションは久々に僕の喉を潤してくれるものになりそうだ。

ブリアルなどを輩出したダブステップの名門レーベル<Hyperdub>の看板アーティストの一人で、ブルックリン在住の才女ローレル・ヘイローによるドリーミーなアンビエント/ドローンから始まり、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)へと続いていく。現代音楽〜エレクトロニックミュージック〜ポスト・インターネット・ミュージックと様々な文脈で評価を受けるOPNの「Music For Steamed Rocks」という曲は、1960年代のポーランド現代音楽の総称でもあるポーランド楽派を代表する作曲家ヴィトルト・ルトスワフスキのプレリュードを新たに解釈したもので、ダウンロードと12inchのアナログレコードのみでリリースされている『Commissions I』に収録され、今回が世界初CD化となる。

もともとテクスチャーに徹底的にこだわった音響美を特徴としているポーランド楽派のサウンドは、そのままOPNのサウンドのキャラクターに通じるものだ。重厚なシンセに、幻想的なコーラスが重なり、クラシカルな教会音楽の音響をアンビエント化したかのようなこの楽曲は、まさにOPNのサウンドそのもので、テクスチャーの面白さや心地よさがただただ押し寄せてくる。既存のジャンルでとらえきれないだけでなく、聴き流すことを許さない力強さも兼ね備えている。この楽曲とOPNの存在はそのままこのコンピレーションのコンセプトにも繋がっている。

それはもう一曲収録されたOPNの「Chrome Country」にも言える。Warpからリリースされた現時点での最新アルバム『R Plus Seven』に収録されたこの曲も、パイプオルガンのような音色を駆使し、教会音楽のようなスピリチュアルなサウンドがメロディアスに奏でられる。あまりに重厚で密度の高い音の壁が、聴覚に錯覚を起こさせて逆に清涼感や透明感を感じさせてしまうのは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』と同じ効能でもある。

このコンピレーションの表の顔がOPNなら、裏の顔は3曲目に収録されているニコ・ミューリーだろう。ビョークやシガー・ロスのヨンシーの作品でフックアップされたニューヨークの天才作曲家は、アイルランドが誇るレーベル<Bedroom Community>から野心的な作品を数多く発表していることでも知られる。ここでは、アイルランドのボーカリスト、アビー・フィッシャーの声と電子音、ハープやチェレステ、そしてストリングスを駆使し、エレクトロニカ/アンビエントに、バロック音楽やアイルランドのフォークミュージックの記憶を重ね、独特の世界を創出する。

これ以外にも、ニコ・ミューリー関連の楽曲はさらに2曲収録されている。共にBedroom Communityからリリースされているジェイムス・マクヴィニーの「Beaming Music」と、ナディア・シロタの「From The Invisible To The Visible」だ。英国の鍵盤奏者ジェイムス・マクヴィニーはニコ・ミューリーが作曲したオルガン曲をここでは演奏する。現代音楽シーンで幅広く活躍し、ニコ・ミューリー一派と言ってもいいほど共演を重ねているヴィオラ奏者ナディア・シロタはその名も『Baroque』というアルバムの中の一曲が収められている。共通しているのは、現代音楽のインテリジェンスと、バロック音楽のノスタルジア、そしてエレクトロニカ/アンビエント/ドローンの響きが同居していることだろう。

ちなみにOPNの『R Plus Seven』は<Bedroom Community>の根城であるGreenhouse Studioでミックスを行っているし、彼の作品で重要な役割を担っている作曲家/エンジニアのポール・コーリーは<Bedroom Community>から 『Disquiet』という作品もリリースしている。大きく括って、OPNをも<Bedroom Community>関連とみなしてしまうなら、このコンピレーションが何を目指しているのかがおのずと見えてくる。

OPNやティム・ヘッカー、ベン・フロストに次ぐ才能と目されるグラスゴーのアンビエント/ドローン職人クロード・スピードのトラックは反復される木管楽器とフィールドレコーディングによるノイズが折り重なる、ミニマルかつリズミックな室内楽エレクトロニカ。元バトルズの頭脳タイヨンダイ・ブラクストンがソロ名義2作目『Central Market』に収録した電子音とホーンアンサンブルが印象的なオーケストレーションによるクラシカル且つきらびやかなサウンドも、エレクトロニックミュージックとアコースティックなクラシック/現代音楽/教会音楽/フォークミュージックを、その音楽性ではなく「響き」において等価に置き、それをしなやかで快楽的なテクスチャーをまとわせてアウトプットする<Bedroom Community>的なサウンド思想にしっくりとはまる。

さらにその選曲意図をはっきりさせるのがノルウェーのハルモニウム奏者シグビョルン・アぺランドによる「Lite」だろう。エレクトロニカやアンビエントを通過したジャズ的な生演奏作品をリリースするレーベル<Hubro>を拠点とするシグビョルンは、ハルモニウムの柔らかい音色やフォークミュージック的なメロディーによるノスタルジアと、ハルモニウムの独特の響きと持続音を駆使して電子音のようにさえ聴かせてしまう革新性とを同居させる奇才だ。そんなシグビョルンによるアコースティックのハーモニウムによる楽曲も、この並びにあまりに自然にフィットする。

フェンダーローズを魔法のように操るジャズピアニストのジョセフ・ドュムラン、ビョークやカニエウエストも信頼を寄せるポストインターネットの筆頭アルカ、ピアニストのチリー・ゴンザレスとエレクトロのプロデューサー、ボーイズノイズによるユニット、オクターヴ・マインズ、ドリーミーなサウンドを生み出すLAビートシーンの才能ノサッジ・シング……ここに収められているのは、生演奏を超える生き生きとした躍動感をも手に入れたエレクトロニックミュージックのプログラミングの進化と、エレクトロニックミュージックを通過することでマシーンならではの正確さをしなやかを共に再現できる演奏家の進化とが交差する地点にある音源だ。生演奏とプログラミングの境界やジャンルの壁だけなく、バロックやフォークのノスタルジアと現代のサウンドの間に横たわる時間さえをも軽やかに越えていくサウンドがここにある。

欧米のミュージシャンのルーツミュージックとしてのクラシックやフォークミュージックと先鋭的なエレクトロニックミュージックの蜜月を絶妙な選曲により浮かび上がらせているこのアルバムを聴いていると、クラシックを模しながらエレクトロニカ的な要素を取り込んゆく、いわゆる「ポストクラシカル」といったタームさえ無効になっていくのを感じる。むしろ、その先へと向かって自分の耳が開かれていくのを感じるのだ。